さるのけつはぬらしても
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
昔、じさとばさが住んでいました。
じさは、川前の畑に仕事にいき、疲れたんだんが、たばこ出して一服吸っていました。
むこう側の川原のところへ、さるがいっぺい来ていて、地蔵様を一生懸命拝んでいました。じさは、
「何しているがんだろう」
と見ていました。
お昼になって、ばさの焼いてくれたからこだんご(こめの粉でつくっただんご)を出してたべていました。
そのうちにこのだんごを使ってじさは、いいこと思いつきました。
翌朝、川前の畑へいったけど、こんどは仕事をしないで、川原の地蔵様のところへゆき、地蔵様を台座からひきずりおろして、草むらの中に隠してしまいました。
大急ぎで、からこを水でといで、自分の顔にまっしろしろに塗って、頭に手拭いしっかりかぶり、ふろしきをよだれかけにしてすわっていました。
すると、むこうの山からさるがぞろぞろ降りて来て、地蔵様を捜すけど、ないもんで、キョロキョロしていたが、川むこうのじさを見つけて
「あそこへ地蔵様がいた」
とざぶざぶ川をございて、爺さまの地蔵様をみんなでつりもちして、川をわたりはじめました。川の深いところへ来ると、
「さーるのけつはぬらしても地蔵のけつはぬらすまいさーるのけつはぬらしても地蔵のけつはぬらすまい」
といって、ざぶざぶ、ざぶざぶと川をこざきました。
じさは、おかしくてどうしょうもない。
あんまりおかしいので、おなかに力がはいって、おもわず、ブーとへをしてしまいました。
さるは、びっくりして、
「なーるはなんだ」
といいました。じさは、すると
「ほっけ(法華)の太鼓」
とこたえました。
「なーるはなんだ」
「ほっけの太鼓」
といいながら、川向こうへ運びこんで、地蔵様の台座の上へじさまをのせて、山から取ってきた、くりだの、柿だの、あけびだの、きのこだのを、お供えしてかわりばんこに、おがみました。
さるがいってから、じさは、お供えをふろしきにいっぱい包んで、家へ帰りました。
これを婆さんに話してきかせたら、隣のじさが、それを聞いて、
「よし、おれももらってこよう」
といって、翌日、川前の畑へ出て、からこをとき、まっしろしろに顔に塗って、手拭いをしっかりかぶり、ふろしきのよだれかけして、地蔵様のかつこうして立っていました。
山からさるがおりてきて、
「また、地蔵様が、川向こうへいってしまった」
というて、川をざぶざぶございて、隣のじさを地蔵様と思って、つりもちして、川をございていきました。そして、
「さーるのけつはぬらしても地蔵のけつはぬらすまいさーるのけつはぬらしても地蔵のけつはぬらすまい」
と歌ってざぶざぶございていきました。
隣のじさは、このあたりでへをこかんけやならんなと思うて、一生懸命力んでみたけど、なかなかへが出ません。
そのうちに、へがでねえで、うんこをたれてしまいました。
さるは、きったねがって、じさを川の真ん中の深いところで、ざぶんと投げて、にげていってしまいましたと。
ほうしてとなりのじさは、さんざんな目にあって、やっと帰ってきましたと。
これで昔がすぽーんとさけた。
苔野島 中村クニ
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