和尚と小僧
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
昔、越後の山奥の寺に、和尚と小僧が住んでいたてや。
ある夏の日に和尚が
「山の中で木の葉ばっか眺めていたが、今日は、下の村へ行って米のなる木を見てこうと思うが、小憎お前もついてこい」
といいさしたと。
小僧に握り飯を持たせて、村へ行く途中にタナがあって、そこのいろいろな鯉が泳いでいたてが。小僧が
「和尚様、うまそうな鯉が泳いでいるぜ」
と言うと、和尚が
「あれは鯉ではない。カミソリだ」
といわしたと。
またちょっと行くと、池があって、魚がいたんだんが、小僧が
「和尚さん、でっかいカミソリが泳いでいるぜ」
といったと。和尚さんは
「子供は黙ってついてくるものじゃ」
といわしたと。
暫くして、休むことになって、和尚さんは腰の手ぬぐいを取って
「あっ、シャッポがない。小僧や、お前は後から付いてきて知らなかったか」
といわしたと。小僧は
「さっきあそこに落ちていたども、子供は黙って従いてくるものじゃといわしたんだんが、黙っていました」
というたと。和尚は
「これからは落ちているものはなんでも拾ってこい」
といわしたと。
かえって来る途中、道に黒いものがおっていたと。
小僧は「あっ、これは馬の糞だ。拾って行こう」
と思って帽子の中に入れて、拾ってきたと。和尚様が
「小僧、これはなんだ」
といわしたので、
「馬の糞です。和尚さんが落っていたら、なんでも拾えといわしたんだんが、拾ってきました」
とゆうたと。和尚さんは
「その下に小川があるすけ、綺麗に洗い流してこい」
といわしたと。
小僧は、和尚さんの言う通りに、もったいねえろも、帽子も一緒に流してしもうたと。和尚さんが
「帽子はどうした」
とききなしたんだんが、
「和尚さんが、綺麗に流してこいといわしたんだんが、一緒に綺麗に流してきました」
というたと。
和尚さんはなんもいわんねくて
「そうか、そうか」
といわしたと。
いきがさけた。
相野原 田中スミ
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