ぬかとこめ
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
とんと昔があったげろ。
ぬかとこめという子がいて、ぬかは先妻の子で、こめは後妻の子だったと。
かかがこめは、米の上へ寝せ、ぬかは糠の上に寝したんだんが、こめはしゃっこかったうも、ぬかはあったかかったと。
かかは二人をあおもん(山菜)とりにやらしたと。
あおもん取りしているうちに日が暮れてしもうて、家へ帰らんねなったと。
ほうしたら、山のむこうに、てかんてかんあかりがしるんだんが、二人して行って家へはいってみたら鬼婆々がいたと。
二人はおっかんなったろも、ぬかが
「あおもん取りにきて、道に迷ったんだんが、ここへ一晩泊めてくらっさい」
とたのむと、その鬼婆々は、
「なじょうも、なじょうも」
というて二人をとめてくれたと。ほうして、鬼婆々が、
「おんに、肩もんでくんねか」
というたろも、こめはおっかながってしなかったと。
だろも(だけれども)、ぬかはおっかながらんで肩もんでやったと。
次の朝げ出るとき、鬼婆々がぬかに
「ぬか、なあに面白いがんくれるすけ、誰(だん)にも見せんなや」
というて、袋をくれたと。ほうして、
「この袋はたけや(たたけば)、なあの、すきんがんがなんでも出るじゃ」
というてかしたと。
ぬかは、その袋もろうて家へ来たと。
村で芝居があるというがんで、かかとこめは仕度したうも、ぬかには
「ぬか、なあ家(うち)で臼挽(うすひ)いていれや」
とよいつけた(言いつけた)と。
かかとこめが芝居にいってから、ぬかのどこへつれが、
「ぬか、芝居見にいごうて」
というて迎えに来たと。ぬかは、芝居にいぎてえろも、いい着物(きもん)がねんだんが、
「ちいとばか待っていてくれや」
というて、鬼婆々からもろうてきた袋を
「真っ赤の着物出れ」
というて、ぽんぽんはたいたと。
ほうしると真赤(まっか)の着物が出たんだんが、それを着て、銭(ぜん)どうろ(たくさん)持って芝居にいったと。
銭がいっべえ(たくさん)あるんだんが、さじきのてっじょうへ上ってみていたと。
その下で、かかとこめが見ていたと。
ぬかがミカンの皮やリンゴの皮を下の方へ投げるんだんが、こめがめっけて、
「かっか、おらこのぬかによく似た子がいらあ」
というたと。かかも見たうも
「ばかこけ、ぬかなんか、あっげのいい着物着て、こっげのどこへ来るんだな」
というて、こめの言うことなんか信じなかったと。
ぬかは、かかとこめが来る前に、家に来て、臼ひいていたと。
かかとこめが、あとから戻ってきて、こめが、
「ぬか、なあによく似たがんが、今日芝居見い来ていとう」
というてかしたら、ぬかは、
「そうらかい」
知らんふりして臼ひいていたと。
楢沢 五十嵐石三
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