あんさの八卦見
新潟県長岡市(旧刈羽郡小国町)の昔話。どこか人なつっこい方言とおだやかな語り口調が嬉しい昔語りです。昔話のCDで独特の語り口調がわかると民話の文章が話し始めます。ぜひ昔ばなしを地の語りで聞いてみてください。
むかしあったてんがの。
仲の悪いあんさとあねさがいたと。
あんさはちーとばか間抜けで大食いでのめしこきらんだんが、あねさはあんさをぼいだそうと思うて、
「あんさあんさ、お前も、となん(隣り)のあんさみてよに、京へ行って、金もうけしてきたいよ」
そういうたてやの。
ほうしたら、あんさは、
「おらやら、京まれ行ぐには、腹が減るすけやら」
そう言うたと。あねさが
「じゃあ、でっこい焼け飯、十(とお)もこしょうてやるすけ、いってこねかい」
と言うたと。あんさは
「焼け飯食(くわ)れるだけや(のだったら)、おら行ぐこてや」
そういうて、焼け飯かずいて、出かけたと。
峠まで来ると、山賊がでて、あんさの焼け飯取ってしもうたと。あんさは
「焼け飯がねえことには京へ銭もうけなんか行がんね」
と戻って来てしもうたと。
家はどす(留守)らったろも、腹が減っているんだんが、戸棚を開けてみたと。
なんと、あんこがいっぺいついたぼたもちがあるてんがの。
しかも七つもあるがだと。
あんさが一つ取ろうとしたら、がらがらと戸が開いて、あねさが入ってきたんだんが、たまげて、戸を締めてしらんふりしていたと。
あねさもたまげて
「おまえ、へえ稼いできたらかい」
と聞いたと。
ほうしたらあんさは口から出まかせに
「八卦見が出来るようになったんだんが戻って来た」
というたと。あねさは
「うっそのこっぺえ(うそばっかり)いうて、じゃあ俺が戸棚に何をいれておいたか当ててみれ」
というんだんが、あんさは
「しめしめ」
とちーとばか考えるふりして、にやにやしながら、
「あんこがいっぺい入ったぼたもちが七つあるろう」
というたと。
あねさがぶったまげて、村中に
「おらこの衆は京ヘいって、たいした八卦見になってしもうた」
そういうてふれてあいたと。
ほうしたら、偉い殿様の耳にはいり、
「お城で金百両が盗まれた。誰が盗んだか占ってくれ」
と頼まれたと。あんさは
「八卦見なんてしらんねがんに、おおごっだぜ」
と、ようさる(一晩中)おごっで(困って)寝ていたら、部屋の外で
「あんさあんさ、殿様の金隠した場所ようてきかせるすけ、おれが盗んだこと殿様に知らせんでくれ。助けてくれ」
とちんこい声がしたと。あんさは
「ようしようし、黙っていてやるぞ」
そうようて、次の日にお城に行ってお殿様の前で考えるふりして、泥棒がゆうて聞かしたように
「お城の中の三つめの倉の石段の下を捜してみて下さい」
とさも八卦見のように重々しくいうたと。家来達が行ってみると、確かに金百両が出て来たと。
いんながたまげるやら、喜ぶやらして、殿様は半分の五十両をあんさとあねさにくったと。
だあろも、二人してあすんでいて、めいがんばっか食っていたんだんが、五十両はそんまねえなってしもうたと。
あねさはまたあんさをぼいだそうと、
「おめい、また京の都へ行ってもっとえらい八卦見になってきたいいよ。あんこのいっぺいはいったまんじゅうこさえてやるすけ」
というたら、あんさは
「じゃあ、また京へ行ってみるか」
とまんじゅうかついで、出かけたと。
ほうして峠まで来たらまた山賊にまんじゅうとられてしまい、家に戻ってきたと。
家じゃあねさが
「お前、まんじゅうどうしたい」
ときいたと。あんさは
「また山賊に取られてしもうた」
というたと。
あねさが峠へ行ってみたら、山賊がいんな死んでいたったと。
あねさは、あんさがのうなしこきで、おおまくい(大食)らんだんが、いやになって、あんさを殺そうとしてまんじゅうに毒いれたらと。
頭のいいあねさはさっそく殿様のどこへ行って、
「おらこの衆が山賊いんな退治しました」
というたと。殿様は
「ようしてようした」
とほめて褒美をいっぺいことくれたと。
それからあんさとあねさは仲良く暮らしたと。
いきがぽんとさけた。
武石 鈴木百合子
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