木の股年|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 有名な「姥捨て―難題話」である。老人の知恵を強調するのがモチーフになっている。六十二歳を木の股年と呼ばれることなど「民俗語彙」や「方言辞典」などではなかなか見つからない。

 老人を木の股に捨てる棄老伝説である。満六十歳を定年として職場をリタイアする現代と似たところがある。

 木の枝を折って、道標とする「枝折」は旧湯之谷村の「枝折峠」の地名があるように、本の「栞」の原語である。

 長岡地区の、下條登美さんの昔話にも「おばすて山」と題して、同じような話が語られている。

 信州の姨捨山は地名としてもよく知られているが、この地名は「姨」の字を使っていて、「姥」を使わない。漢和辞典によれば「姨」は、妻の妹、母の姉妹、叔母とある。ここには、老婆という意味が書かれていない。地名辞典などには、「姥捨」「姨捨」の両方使っている。古来この字は、混同されていたようである。

 下條さんの話では、山へ捨てる年令は七十歳からで、殿様の難題は、「灰縄」「九十九曲がりの木の虫穴に糸を通す」「木の年を調べる」の三つだった。木の年齢調べは、木の年輪を数えて年を調べると教えてくれた。旧越路町の高橋ハナさんの話には山へ捨てる老人の年令を六十歳で、難題も一番目、二番目が下條さんと同じだが、三番目は「叩かぬ太鼓に鳴る太鼓」だった。これには、太鼓をこしらえる時に、中に蜂をいれて皮を張れば、中で蜂が暴れて、叩かなくても蜂が音を立ててくれるというものが答えだった。旧小国町の粕川クラさんの話は、姥捨て山の話ではないが、「星の精」というタイトルで、流れ星の精が娘に姿を変え、若者の嫁になるが、鬼がそれをかぎつけて難題を出し、それに答えられないと連れてゆくといわれる。三つ目の「うっすきずのうの袖かぶり」をこしらえよという難題がとけず、鬼に攫われてしまう。二人は笛を吹いて鬼から逃れる話になっている。「うっすきずのうの袖かぶり」とはなにか。旧守門村の馬場マスノさんの話は「うそふき面の袖かぶり」となっていて、うそふき面とは、口笛をふくような顔と註がついている。「袖かぶり」がわかない。

 この話、老人ホームなどで語るには抵抗がある。

 

木の股年

むかしあったてんがな。

むかしのこんだども、年寄りが六十二の年になれば木の股年っていうて、その年寄りを、奥山の木の股にはさめてぶちゃってきたがんだと。

ほうして、あるどこね、婆さとあんにゃがあったてんが。

婆さ、六十二になったんだんが、そういうきめだすけ、しょうようがない、あんにゃは(1)、婆さをぶて、おく山へぶちゃりに、泣き泣きいったてんがない。

ほうして、木の股に婆さを置いてこうとしたれば、「あに、あに、ようしてくれたでや。お前が、家へ帰るどき、道に迷うとおおごとだすけ、おいらが来るどき、木の枝を折り折りしてきた。その枝を頼りにして、家へいげや」って、婆さがいうたてがだ。

ほうしたら、あんにゃは、たまらんなって、涙こぼして、「こんげな、いいさ婆さ、山へぶちゃってはいがんね。いらこの婆さ、おいらこへ連れていぐ」っていうて、婆さをぶて、家へ連れてきて、こっそり隠しておいたって。

ほうしてあるどき殿様から、難題が三つでたてがんだ。

「一つめは、アクでナワのうてこい(2)、二つめは、曲がったホラの貝に糸を通してこい、三つめは、生の木ころを二つに切ったがんを、もとのように、ふっつけてこい」ってがんだと。

ほうして村のしょは、どうせばいいか、寄り合いして相談しるども、わからねと。

ほうしたれや、婆さが、「あんにゃ、あんにゃ、まいばん、寄り合いしているが、なんがあるや」「いや、それが、これこれこういうわけだ」「そんげなこと、ぞうさもない(3)ことだねか。一つめは、ようたたいたワラで、ナワをのうて、そのまんま燃やして、お盆にのせてだせばいい。二つめは、ホラの貝のかたっべに、飴をつけておいて、もうかたっべのどこから、アリゴの足に糸つけてはなしてやればいいねかい。三つめは、木の切り口を平らにして、切り口と切り口をふっつけて、よう縛って、水の中にいれておけば、そんま、ふっつかや」って、おそいてくれたや。

ほうして、その通りにして、村が助かったというこんだいの。

それから、年寄りを山へぶちゃらんようになったっての。

そっれ、今で、六十二になると、おいら、六十二の木のまたどし、だなんて、いうているがんだいの。

いちごさけた、どっべんぐらりん。

【出典】『栃尾郷昔ばなし集』栃尾市教育委員会 昭和三十八年 比礼 小林マチさんの語りより
【注】1.しょうようがない(仕方がない。このことばにどんな漢字をあてるのか) 2.アク(灰)3.ざうさもない(たやすいこと)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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