新潟県見附市の富川蝶子さんの昔話。その端正な語り口調を知ると、文字が生き生きと語り始めます。ぜひ一度CDでむかしばなしをお聴きください。
さるぢぞう
むかしあったてんがの。
あるどこにかせぎてのじいさとばあさがあったっての。
じいさが毎日山へ仕事に行かれるんだんが、ばあさがちゅうはんにヤキメシこしょうてやるってんがの。
じいさが、今日もヤキメシたがいて山へ行ったての。ひと仕事したらばっかねぶっとうなってきたってんがの。
秋のお日さまがテカテカしてあったかい日だすけむりもねい。じいさ木のかげで休んでいるうちにいつのこまにか、ねてしもうたってんがの。
そこへどっから出てきたやらサルが五・六匹も出てきたって。ほうしてじいさんのヤキメシめっけてみんな食ってしもうたっての。そうして、そこへじいさがねているんだんが
「オーイ、こんげどこへお地ぞうさまがねていらっしゃるいや。もったいないにあっちのお堂へ移しもうそうねか」
そういって、「よっしょよっしょ」とじいさをかつねてサルどもがジャブジャブと川の中へ入って行ったとの。まん中ごろへ行ったら川が深くなってひざのかぶのあたりまで水がくるってんがの。サルのおやかたみたいんのが大声で
「ホーラ、もっと上へかたねれいや。サルのふんぐりぬらしても地ぞうのふんぐりゃぬらすなヨーイのコーラ。」なんておかしい歌をうたって行ぐんだんが、じいさはおかしておかしてどうしようもないども、がまんして笑わねでいたっての。
そのうちに川こさいいであっちべたにあった小んこいお堂の中へじいさを入れて
「お地蔵さまお地蔵さま、さっきはおめえさまのヤキメシもろてくてうまかったいの。かわりにこれをあげるすけくってくんなさい。」
なんかゆうていもだの柿だのなんかいろいろ持ってきておそなえしては参っていぐっての。そのうちに山仕事に来た人までが
「オーココ、こんげんどこへ地蔵さまが立っていらいるな。」なんかいうて拝んだり、おさいせんを上げたりして行ぐってんがの。じいさは一日山仕事は休んだども帰りはたがききれんほどのおそなえものを持ってうちへ帰ったっての。
「ばあさ、ばあさ、今きたど。」
と、いうて柿やいもや栗やおさいせんをひろげて見せて
「まあまあ、いいかったのし。」
としゃべっているどこへ、となりの欲ばりのうちのばあさが、ぼっこれやかんをグラシチグラシチとひっぱりひっぱり火だねをもらいに来たってんがの。ほうしてそれを見て
「おここ。ここんうちのしゅうはどうしてそんげいっぱいことうまいもんとってこらいたい。まあまあ銭(ぜん)もあるねかい。」
と、いうんだんが、じいさが山へ行ってこうだっけときかせたっての。
その欲ばりばあさ、そうせばおいらじいさもあしたは山へやろうや。うちでふんぐりあぶりばっかしているがんに。そう思って帰ったんてんがの。
そうしてつぐの日じいさにヤキメシ持たせて山へやったっての。じいさ何も仕事しないでぶらぶらしていたっけが、
「へえ、ちゅうはんごろだろかな。」
と、ヤキメシみんなくてしもうて、そこへ昼ねしていたと。そうしたらまたサルどもが出てきて
「アッキャ、きんなのお地蔵さまがまたこんげどこへいらいる。またあっちのお堂へ移しもうそうねか。」
と、いうて「よっしょよっしょ」とかつねてまた川のまん中ごろへ来たら
「サルのふんぐりぬらしても地蔵のふんぐりゃぬらすなよヨーイのコリャ。」と、おかしい歌をうたいはねたっての。へえじいさはおかしておかしてがまんが出来んでとうとう「アハハハ…アハハハ…。」と笑いだしてしもうたってんがの。そしたらサルどもはおこって
「なんだ。これはにんげんだねか。きんなはおいらをたらかして、おそなえもんをみんなとってしもうてなんだってがんだ。今日はヤキメシもてまえでくって今日はたらかさんねど。」
と、いうて一、二、三でじいさを川の中へほんなげたってんがの。じいさはぬれねずみになって、やっとこせっとこ川から上ってうちへ帰って行ったと。
それでいちごポーンとさけた。
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