新潟県見附市の富川蝶子さんの昔話。その端正な語り口調を知ると、文字が生き生きと語り始めます。ぜひ一度CDでむかしばなしをお聴きください。
米ふく あわふく
あったてんがの。
むかしあるどこに、こめふく、あわふくという名の女の子がいたってや。
こめふくは、せんの母ちゃんの子で、あわふくは、ゴケどんの子だってんがの。ゴケドンは、こめふくのことを憎がって、あわふくばっか可愛がっていたっての。
秋になって父ちゃんが旅かせぎに行がれたってんがの。そうしたらゴケどんが
「ないら、今日は山へ栗拾いに行ってこい。袋にしっとつにならんうちは帰ってくるな。」
と、いうて、こめふくの袋には穴をあけ、あわふくにゃ穴のないいい袋をあけてやったってや。そうして、
「こめふくや、んなは、こったい子だすけ先になって行ぐがんだど。あわふくは小んこい子だすけあとからついて行げや。」と、いうがんだってんがの。
こめふくはいわれたとおりに先になって拾うて行ぐども袋の穴からみんな落ちてしもうていっこうたまらないってんがの。
あわふくはあとから行ぐすけこめふくの落としてゆぐ栗をみんな拾って
「こめふく、おらへえ袋にしっとつになったすけうちへ帰るど。」と言うたっての。こめふくは
「そうか。おらまだいくらもたまらんすけまだ帰らんねぇや。」と、言うて拾うていたっての。
そうしているうちに、へぇくろうなってきたってんがの。
こめふくは栗をいっぱい拾うども袋の穴があいているすけ、持ってかえらんねで木の根っこへかためて、てまえもそこへ休んでいたってんがの。
そのうちにつかれが出たげで、ねってしもうたってんがの。
ほうして夢をみたっての。その夢の中で死んだ母ちゃんが出て来て
「こめふくや、おれが袋の穴を縫うておいたど。ほうしてない、んなにこの宝箱をやる。なんでもほしいものを出れ出れと言えば何でも出てくる箱だすけだれにも見つからんようにしもうておけや。」
と、言うたかと思うと目がさめたっての。
「アイヤー、オラおもしい夢見たな。」と、こめふくがそこらを見たら袋の穴はちゃんと縫ってあって栗はしっとつにつめてあるし、そんもそこへ小んこい箱があったっての。
こめふくはよろこんでそれをうちへ持ってきて「今きたれの。」「栗いっぺ拾うてきたかや。」とゴケどんが聞いたってんがの。
こめふくは箕(ミ)を持ってきてグヮラグヮラとあけたってんがの。
ほうしたら、あわふくの拾てきたのよりもいっぺいことあったっての。
こめふくは二階のてまえの部屋へ行ってタンスの中に宝箱をしもうてしらんふりしていたっての。
そうしてそれから村のお祭りがあって芝居があるがんだっての。
あわふくはあさげっからいい着もんきせてもろて芝居見に行ぐがらども、こめふくはいい着もんもいいげたもないんだんがだまっていすす引きの仕事をしていたっての。
ほうしたらまた死んだ母ちゃんが出てきて、
「こめふく、おまえ芝居見に行ってこい。オレがこのいすす引きしておいてくいるすけ。」と、いわれるども
「おらいいきもんも何もないがんに…」と、こめふくがいうたら母ちゃんは
「こないさの宝箱持ってきてみれや。」そう言われてその箱持ってきたら母ちゃんは
「いい着物、いい帯、いいくし、いいかんざし、いいたび、いい下駄出れ出れ。」
ほうしたら次々とみんな出てきたっての。
こめふくは、そのきもん着ておびしめて支度していとしげないい娘になってお祭り場へ行ったと。
人がみんなたまげて「どこのお嬢さまだろうの。」なんかいうて見ているってがの。あわふくもめっけて
「あの子はおらこのこめふくによう似ているのし。」
「こめふくはあんげいいきもんや帯やかんざしなんか持っていない。あれはどっかのだんなさまのお嬢様だ。」
なんてゴケどんが言うていらしたってんがない。
こめふくは芝居も終りそうになったし、いすす引きが心配だすけいそいで帰ってきたってが、あんまり急いで下駄がかたっぽぬげてしもうたっての。それでもかまわんで帰ってきて、いいきもんや帯をまた宝箱にしもうていすす引きしたって。
そこへゴケどんとあわふくが帰ってきて「こめふく、今日芝居のどこで、んなにばっかよう似た子がいたっけよ。」と言うたどもこめふくは「そうか」と言うて知らんふりしていたってんがの。
それから二・三日して隣の村のだんなさまが下駄をかたっぽたがいてこられて
「ここのうちに芝居を見に行った娘はいないか。」ときかれるってんがの。ゴケどんが、
「はあいるいの。この子だいの。あわふくって名だいの。」
「そうか、そうせばその日はいて行った下駄を見せてくれいや。」と言われるんだんが、
「はあ、この下駄だがの。」と両方の下駄を出したっての。そうしたらその人は自分が持ってきた下駄を出してみて
「いいやこの下駄でないな。下駄は一つしかないがだ。二つそろっていればこの子ではない。」と言うていたっての。
その話を聞いていたこめふくがその時、二階からトントンとおりてきて下駄を一つ持って芝居見に行ったどきと同じ支度してきて
「あの時、帰りしなにあんまりあわてて下駄がぬげたども取りに行かんねかったいの。」と、言うたっての。
比べてみたら丁度一足そろうた下駄だってんがの。
「ああ、この子だ、この子だ。うちのだんな様がどうでも嫁にほしいといわっしゃるすけもろて行くれの。」と言うて、こめふくはおかごにのってだんな様の嫁に行ったってんがの。
いちごポーンとさけた。
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