サル婿入り|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 民話のもっともポピュラーなものといえば、真っ先にこのサル婿入りを上げなければならない。

 サルの嫁となるべき娘が、知恵を働かせてこれを逃れたという異類婚姻譚の一種。娘を嫁にという要求は決して理不尽なものでなく、畑の草取りという労力に対して当然の代価だった。しかも、サルは嫁のいうどんな無理難題も聞き入れながら、最後には、嫁の計略にはまって、命を落とさなければならない。それなのに、決して嫁を恨まず、自分の命はどうなっても、後に残る嫁の将来を心配しつつ死んで行く。なんと哀れな民話であろう。動物のサルが人間に求婚する理不尽を戒めたとも言われている。

 全国的にみると、この話は、一度嫁ぎながら里帰りの途中で、猿の命を絶つ里帰り型と、嫁ぐ途中に水瓶を猿に背負わせ、川の深みにさそって命を絶つ水瓶型とに分けられ、前者は東北・東日本に分布し、後者は西日本に分布しているとされる。一度は、サルとの婚姻を承知したはずなのに。なぜ、その命をとってしまうことになるのか。これほどまでにポピュラーな民話になったのか謎めいている。

 

 サル婿入り(ストーリー概要)

あったてんがの。

あるどこに、じさと娘の子三人あったてんがの。

あるどき、じさが山のはたけへ粟の草取りにいったてんがの。

あんまりあっちゃいんだんが「やれやれ、この粟の草、だれか取ってくっるもんがあったらおら、娘の子三人もっているが、どれかひとら、嫁にくっるがな」と、おもわずひとらごといいしまに、草取りをしていたてんがの。

ほうしたれば、山のサルがチョコチョコ出てきて、「おれが粟の草とってやるすけ、おんに娘の子を嫁にくらっしゃい」というたてんがの。

サルは、チョコチョコと、粟の草をとってしもたてんがの。

いつのいつかに、嫁もらいにいくってきめて、サルは山へ行ってしもたてんがの。

じさ、うちへ帰ってきて、おおごとしたとおもているうちに、じさ、あんばいがわるうなって、ウンツウンツうなって寝ていたてんがの。

いっちの姉娘がきて、「じさ、じさ、なじだい。湯でも茶でも、のまんかい」いうと、じさは「おら、湯も茶もいらねえが、山のサルのどこへ、よめにいってくれ」と頼んだと。

「このばかじさ、なに、いわっるい。山のサルのどこへなんか、なに、よめにいがっるんだろうば」姉娘は、そういうて、逃げていってしもたてんがの。

ほうしると、こんだ、つぎの娘がきて、「じさ、じさ、なじだい。湯でも茶でも、のまんかい。」というたと。

じさは「おら、湯も茶もいらねえが、山のサルのどこへ、嫁にいってくんねえか」と頼んだと。

「このばかじさ、山のサルのどこへなんか、なに、嫁にいがっるんだろうば」そういうて、つぎの娘もまた、逃げていってしもたてんがの。

じさ、心配していたれば、いっち末の娘がきて、「じさ、じさ、なじだい。湯でも茶でも、のまんかい」というたと。

じさは「おら、湯も茶もいらねえが、山のサルのどこへ、よめにいってくれや」「ああ、おれが、よめにいくで、いくで。そんげんこと、心配することはねえすけ、らくらくしらっしゃい」というたと。

ほうしているうちに、山のサルが、いい男になって、嫁もらいにきた。

末の娘は、嫁になって、山のサルについていったてんがの。

三日めのヒザナオシに、里のじさのどこへ帰るとて、サルは、ジサのみやげに、モチついてくれたてんがの。

「このモチ、重箱にいれて持っていぐか」というたれば、嫁は、「重箱くさくていやだと、じさが、いわっる」という。

「そうか、ほうせば、フツのなかにいっれ、いぐか」「フツくさくていやだと、じさが、いわっる」「ほうせば、どうせばいいがら」と聞くと、「お前が、臼ぶてつきつきいったモチが、いっち好きだと里のじさがいわっる」というんだんが、サルが臼ぶて、あとから、嫁が、杵もって、モチをつきつき来たてんがの。

川のはたに来たれば、むこうの方に、きれいなサクラの花が咲いていたてんがの。

「サルどん、サルどん、あのきれいなサクラの花、一枝、里のじさへみやげにもっていぎたいが、お前、とってきてくっらんねえか」と頼むんだんが、サルがその臼を、べとわらにおろそうとしたれば、「そんげんどこに、臼をおろして、モチが、べとくさくなって、食わんねえというすけ」というんだんが、サルは、臼をぶたまんま、サクラの木にあがったてんがの。

木の下の枝をおっぽしょろうとしたれば、「もっと、てんじようの枝のきれいな花をとってくらっしゃい」「この枝か」「もう、ちっと、てんじょう」「これか」「もう、ちっと、てんじよう」と、サルは、だんだんサクラの木のしんぶらへあがって、手をのばしたれば、枝がおっぽしょれて、下の川へ、パシャンと落ってしもたてんがの。

ほうして、臼ぶて、ゴンゴン川へ流れていったてんがの。

サルは、川へながれしまに、サルはサル川へ流れる命は惜しくはないがあとに残る娘がかわいかわい、そういうて流れていったてんがの。

娘は、じさのどこへ、帰っていったてんがの。

いきがポーンとさけた。

【出典】『赤い聞き耳ずきん』水沢謙一 野島出版より要約

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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