夫婦の因縁|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 この話は、「運定めの話」として人間は生まれた時に、神仏や精霊によって将来の結婚・福分・死など運命付けられているという考え方に裏付けられている。超自然の力によって人間の生き方が指示、決定されることを主題とするこれらの昔話群は「運命譚」と呼ばれている。ここでは、結婚相手が神様から決められている。一度それに逆らおうとしても、結局は、神の意思に背くことができないというのである。人間を含んだ全宇宙の一切が超自然によって支配されていると考える運命論は、人類に古くから存在していた考え方で世界中多くの民族の信仰や伝承に見られるという。特に「あきらめ」を美徳とした日本では昔話の中に顕著に表れているという。「長いものにはまかれろ」「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」「瓜のつるには茄子はならぬ」「蛙の子は蛙」といった諺に色濃く反映されている。

 旧暦十月は、古い月の呼び名で「神無月」と呼ばれているが、この月に、村の鎮守の神々が出雲に集まって、男女の結婚相手を決めるとされている。諸国の神々が集まる出雲では十月は「神有月」と呼ばれているという。九月の末には「神送り」、十一月初めを「神迎え」と呼ばれ、様々な行事が行われる。この日の夜に神社に行くと、神さまの乗った馬の鈴の音や蹄の音が聞こえるという。

 またいつまで経っても結婚しない男女を「出雲の帳面はずれ」ともいう。今で言えば、結婚相手検索サイトに名前が落ちてしまったともいえる。

 この運定めの話も、ここに紹介したような結婚相手を決める夫婦の因縁の第一のタイプがあるが、そのほかにも、持っている福分で将来の貧富が定められている男女の第二のタイプ、死の運を定める第三のタイプなどに分けられる。

 男女の貧富の運を決める第二のタイプは、貧しいが、豊かな福分を与えられた女と今は豊かだが、貧しい福分を与えられた男が結婚する。豊かな家の男は貧しい家の妻を追い出してしまい、妻はやむなく別な貧しい男と再婚する。その妻は、持っていた福分でたちまち裕福になるが、豊かな家の男は持分の財産を使い果たして落ちぶれる。その男が偶然、裕福な家の元妻と再会する。女はその元夫の落ちぶれた姿にお金を恵んでやる。ところが男はそれを捨ててしまう。心理学者の河合隼雄氏は、この話に登場する女性を自ら運を切り開く積極性のある女性として高く評価している。

 死の運を定める第三のタイプは高橋ハナさんの話にある。生まれた子供が十歳になると水に命とられると神様のお告げがあり、十歳になると家中で水の傍に近づけないようにしたが、その子は波模様の暖簾など意外な「水」に首を絡ませて死んでしまうというのである。

 冒頭に書かれた神々の問答を居合わせたものが立ち聞きするというモチーフは「産神問答(うぶがみもんどう)」ともいわれる場面である。

 文化年間に出版された三条の人橘崑崙著「北越奇談」にも五の巻に仮設斎という人物が祠の前でこの問答を聞く場面が書かれている。

 

夫婦の因縁

とんと昔があったげど。

ある晩、村の鎮守様の中に、旅の若い男が泊まっていた。

ほうしると夜なかに、ほかの神様が鎮守の神様を迎えに来た。

「村にお産が出来るすけね、いごうねか」

「おら、こんにゃお客があるすけ、いがんない。

どうかお前さん方で、よかろうようにしてもらいたい」たいがいめえると、また声があって、「今、帰った」「生れっ子は何で、因縁はどうだ」「女っ子が生れたが、ここのこんにゃのお客と夫婦になるようにして来た」「そうか」その神様は帰っていった。

男はこの神様方の話を聞いて、「今、生れた女っ子を、おらと一つにする(1)なんて、とんでもねえ。

おらと一つにならんねように、その女っ子を殺してくれる」と思うて、夜のあけるのを待って、村へ行って女っ子の生れた家をたずねた。

ほうしてその女っ子を、切れもんで首のどこをさして、殺したつもりになって、またどっかへ旅立った。

それから何年かたって、その旅の男は、かかをもろて、子供も生れ、しあわせに暮していた。

ある日、子供が、かかの首のどこの傷あとを見つけて、「かっかの首の傷あとはどうしたがだ」「これか。おらが、生れたばっかの赤っ子の時に、何もんだか知らんが、どっかの旅の男が、おらを殺すとて、きれもんでここをさしたがだ」これを聞いたつぁつぁはたまげた。

「ほうか、ほうか、あの時の赤っ子が、今はおらのかかになっているのか。なるほど、そうであったか」と、ふしぎに思うたどもに、かかには何も言わんで黙っていたと。

これで、いちごさけビチョン。

【出典】『とんと昔があったげど 第二集』 水沢謙一編 未来社 昭和三十三年 楢木 野上マサさんの語りより
【注】1.一つにする(夫婦にさせる)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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