手無し娘|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 国内外に広く分布する「手無し娘」といわれる継子譚のひとつ。場所によって少しずつ違っているが、手を切られる場面や手紙を差し替えられる場面は、共通している。手を切られた母親の母性愛が高揚する場面で両手が生えてくるという超自然的な奇跡をおこす。民話には、このように死んだ娘が生き返ったり、大怪我を神仏が受けてくれたりして、現実には不可能な人間の願望をかなえてくれるものがある。夫婦・親子の愛情に感動した神仏が手助けして危機を乗り越える。ここでは、あまり強調されていないが、この親子・夫婦の愛情を邪魔した継母に罰が下る話になっているところが多い。「俊徳丸」「小栗判官」など瞽女唄にも共通する。

 

手無し娘

あったてんがの。

あるどこねしんしょのいい、こうぎのだんな様で、サンゼンサといううちがあったと。

ほうして、そこの若だんなが嫁をもらう年ごろになって、うちのしょが、嫁をさがねるども、いっこうにねえがらと。

ほうしるんだんが、うちのしょが、「あんにゃ、あんにゃ、お前、そこらへ嫁さがしに行ってこいや」というて、サンという若いしょを供にして、旅へ出さしたと。

ほうして、若だんなとサンが、旅へ行って、ある川ばたのはたごやへと泊っていたれば、舟の船頭が、「コウノイケ(1)に、きれいな娘が二人いらっしゃる」なんて話しながら、舟こいで行った。

それをサンが聞いて、若だんなに知らせた。

若だんなとサンは、呉服屋になって、コウノイケへ出かけた。

「呉服屋でござんすか」というて行ったれば、そこのおっかさまが反物を見ているうちに、「娘たち、お前たちもきて見れや、きれいな反物だ」といわした。

ほうしたれば、二人のきれいな娘が出てきて、若だんなは、その姉娘が気にいったと、ほうして、仲人が行って、その姉娘を嫁にほしいともらいに行った。

こんだ、娘のうちでは、姉娘が嫁にいぐてがで、友だちをよんで、ごうぎな友だち振舞があった。

ほうしたれば、後家のおっかさまが、手前の娘を嫁にやりたいがに、姉娘がいぐんだんが、にっくがって、おとっつぁんにいうたと。

「あっけな娘、ごうぎなだんなさまへ、嫁になんかやらんね。山へ行って殺してくんなせの」というんだんが、おとっつぁんは、かかにまけて山へ連れて行って、娘の両手を切り、娘を山の沢へ投げてきたと。

その娘は、さいわい生きていて、サンゼンサのうちまで、やっときて、柿の木のどこでガリンガリンと柿をかじっていたと。

庭はきの爺さが見たら、それは、若だんながもらいにかかった嫁だった。

若だんなもきて、「お前、手なんかないたって、おらちの嫁になってくれ」と、嫁になってくらしていた。

コウノイケのうちは、貧乏になって、おっかさまは、街道に出て酒みせを出し、酒みせのかかになっていらした。

サンゼンサのうちでは、若だんなが江戸へ出かけた留守に、男の子が、めでたく生まれた。

「玉のような男の子が生れたが、何という名にしたらいいか」という手紙をサンが持って、江戸の若だんなのどこへ出かけた。

ほうして、道中の酒みせに休んだれば、おっかさまが、サンに酒を飲まして酔いつぶして、ほどこ(2)の手紙を見て「鬼の子のような子が生れたが、あんげな嫁をどうしよう」と書きかえてしもた。

若だんなが、その手紙を見て、「いくら鬼のような子が生れても、だいじに育てるように」と返事を書いた。

サンがその手紙を持って、また、酒みせに休んだ。

酒みせのかかが、サンを酔いつぶして、ほどこの手紙を見て、「そんげな鬼の子のような子を生んだ嫁を、はやく出してしまえ」と、書き替えてしもた。

うちのしょが、その手紙を見て、「こっげなはずはないがらが」と、ふしぎにおもたが、若だんなのいう通りに、嫁を出した。

出るときには、かねを、どうろ、あつけてやった。

ほうして、嫁は、その子をぶて、そこらをあいんでいるうちに、水が飲みたくなって、子をぶたまま、川につっ立ったって、水を飲もうとしたれば、せなかの子が、ツーとさがってきて、川へ落ちようとした。

そんどき、思わず両手が出て、その子をおさえた。

ほうしたれば、そこに立っていらした地蔵様の手が二本、なかったと。

そこへ小屋をたて、地蔵様を守りながら、酒みせを出した。

ある日、ひとらのお客が休んでいた。

子どもが、その人のどこへとんで行って、「おとっつぁま」というて飛びついた。

「おう、お前、かわい子だな」というて抱いていらした。

ほうしているうちに、嫁も、若だんなも、ンな、わかりあって、「ああ、そうか。そうか。おら、お前たちをさがねてあいていたがだ、さあ、うちへいごうで」と、うちへきて、地蔵様もつれ申して、一生安楽にくらしたと。

いきがポーンとさけた、なべの下ガラガラ。

【出典】『雪国のおばばの昔』水沢謙一編 講談社 高橋ナオさんの語りより
【注】1.コウノイケ(大阪の豪商) 2.ほどこ(懐)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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