秋山のぶつ|新潟県の人気昔話の解説
新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。
世にいう「愚か婿話」である。「愚か婿」や「愚か村」の田舎者を笑う話は、ほぼ全国的に広がっている。近世以降村人が旅に出かけたり、都市部の商人が村に入り込むことが多くなるにつれて、習慣や方言の違いが意識されるようになったためであろうと言われている。江戸時代の滑稽本、十返舎一九『東海道中膝栗毛』なども田舎者に対する差別意識が出ているが、この頃からそうした意識が出てきたのであろう。
ここでは、ぶつがカラスを和尚と間違えることや、瓶の尻を押さえろといったのに、自分の尻を持った話で締めくくっている。この後、和尚が風呂に入り、風呂がぬるいので、何でもいいから燃やしてくれと頼まれて、和尚の脱いだ衣服を燃やしてしまう話が付け加わっているものもある。あるいは、コタツの入り方を知らずに、猫の真似をしてコタツ布団にもぐる話、熱い風呂をうめるために沢庵でかき回した話、馬の尻穴に柱掛けを下げる話、牡丹餅を意味するはんごろしという食べ物を聞いて恐ろしくなって捨ててしまう話、などたくさんの愚か婿話が伝えられている。
こうした話は、婿が嫁の実家に行って、そこで失敗する話が多い。田舎者の婿が嫁の実家の町に呼ばれていって町の習慣になじめず、失敗する話になっている。田舎者の婿が、嫁に実家で挨拶を失敗する話、これも「さようでございます」という挨拶を予め嫁から教わる。嫁がテーブルの下に見えないように婿の足に縄をつけていて、嫁がその縄を引くと、婿が「さようでございます」と挨拶する。それで、嫁の実家では、愚かな婿という評価を見直すのだが、そのうちに隠していた縄に猫がじゃれて、そのたびに婿は「さようでございます」を繰り返して婿の愚かさがばれてしまう。
しかもこれはことごとく「秋山の馬鹿婿」と呼ばれている。「秋山」は今の津南町秋山郷、全国にこうした愚か婿話が残っている。秋山だけではなく、県外にも千葉の増間話、長野の美麻村などが上げられる。こうした場所は.平家の落人伝説と結びついているところが多い。この村人がそろって町に出て、食べ物で失敗する「そば旅籠」などの話がある。町に出て、宿で出されたそばの食い方がわからず、宿の主人に教わるが、たまたま主人がわさびにむせて咳き込むと一同それが食べ方の作法と思って、一斉に咳をはじめる。こうした村人の失敗を笑う話は「愚か婿」に対して「愚か村話」に分類される。
秋山郷出身の人は、自分が秋山の出身というのを深く恥じたという話を聞いた。確かにこの話には、田舎者に対する差別意識が根底になっている。話す場所と聞く人に注意が必要である。
秋山のぶつ
昔、あったてんがの。
秋山というろこに、つぁつぁとぶつというせがれと二人暮らしていたと。
ある日、かっかぁの命日がきたんらんが、つぁつぁがせがれのぶつに「な、お寺へ行って坊さんにお経を読んでもらいたいと頼みに行ってきてくれや」というたと。
ほうして「和尚さんはな、黒いきもんを着ているすけ、すぐわかる」というたと。
ぶつがお寺へ行ってみたら、お寺の屋根の上に黒い鳥がいたんらんが、「おらこへ、お経を読みにきてくれや」と、いうたと。
ほうしたら「カー、カー」と、いうたと。
ぶつはそれを聞くと大急ぎで家へ帰ったと。
つぁつぁが「和尚さん、どういうたや」と、いうたら「カー、カーというた」と、いうんだんが「ばか、そら、カラスじゃねか。じゃあこんだおれが行ってくるすけ、おまえは家で、まんまをたいていてくれや」というて、お寺へ出かけていったと。
ぶつは、まんまをたきはじめたと。
だいぶめえたら、かまが「ブツ、ブツ、ブツ、ブツ」というて、まんまが煮えてきたと。
ぶつは「あ、あ、あ、あ」と、いっくら返事をしても、いつまで呼ばってばかりいるんだんが、きもがやけて、灰をつかんできてかまの中へ入れてしもうたと。
そこへつぁつぁが帰ってきて「ぶつ、まんまはできたかや」と、いうたと。
ほうしたらぶつは「いくらおれが返事をしても呼ばってばかりいるんらんが今灰を入れたろこら」と、いうたと。
つぁつぁは、「じゃ、どうしようもないすけ、二階にこしょうてある甘酒をごっつおしるすけ、下へおろしがん、なあもてつだいや」と、いうたと。
ぶつは二階の下にいて、つぁつぁが二階から「ほら、これからおれが甘酒のカメをおろすすけ、けつをしっかりたがけや」と、いうたと。
「おーし」と、いって、てめいのけつを、しっかりおさえていたと。
つぁつぁは、「ぶつ、よくけつ持ったかや」と、いうと「うん、よく持った」と、いうたんなんが、つぁつぁはカメをはなしたてや。
ほうしたら、カメがガシャンと割れて、甘酒がみんなこぼれてしもうたと。
いきが、すぽんときれた。
【出典】『榎峠のおおかみ退治―越後小国昔話集」小国芸術村友の会編 平成十二年刊 高橋慶重郎の語りより
※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。
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