新潟県見附市の富川蝶子さんの昔話。その端正な語り口調を知ると、文字が生き生きと語り始めます。ぜひ一度CDでむかしばなしをお聴きください。
六十二歳のウバ捨て山
あったてんがの。
昔あるどこにばっか貧乏の小(ち)んこい村があったてんがの。
貧乏のどこへもってきて三年も不作が続いてへぇ年貢も納めらんねよになってしもうたってんがの。
そいで旦那様が困ってしもうて村の主立衆を集めて相談しらしたっての。
「まあ、こう不作が続いてもともと貧乏だってがんに、今年はへぇ年貢も取り立てらんねが、俺がいろいろ考えたが、こうなっては、何とか口べらしをしんばねが生れてくる子は宝だすけいくらなんぎたっても育てんばん。年寄りはへぇ役に立たん。ごくつぶしだばっかだが、どうだろかのし、六十二位(ぐらい)になったら年寄りを山へぶっちゃることにしろねえかぇ。」
と、言わっしゃるってんがの。
みんながああだのこうだのと意見も出たども、どうもいい知恵もないでやっぱり旦那様の考え通りに年寄りを山へぶっちゃることに決めたがだってんがの。
そうして村中へふれが出されたっての。
丁度その時分村で一番の親孝行で正直者のあんにゃの家のばあばが六十二才になったっての。
そいであんにゃは、いくら大事な親ばさでも村の決りは守らんばならんし、今日は言おうか明日言うことにしようかと毎日まいんち、せつながっていたっての。
そうしたらある日、ばうばのほうから
「あに、あに、おらへぇ六十二の誕生日が過ぎたがだが、あしたあたり山へ負(ぶ)て行ってぶっちゃってきてくれや。」
と、言い出されたっての。
あんにゃは、次の朝げまんまいっぺこと焚いてやき飯いっぺことこしょうて、ばあばを負てやき飯たがいて山へトボトボと登って行ったとの。
なんだかばあばが木の枝をガサガサポキンとほっぽしょっているような音がしるってんがの。
「ばあばは、まあ何して木の枝なんかほっぽしょっていらいるがんだろと、思って登って行ったっての。そうしてへぇしかも山奥まで来たんが、こゝいらでいいろと思うてばあばをおろしてやき飯もおいてまた俺がちょこちょこと持ってくるけ長生きしてくらっしゃいのし。」
と、言うてもどろうとしたっての。そうしたらばあばがの
「あに、あに、んなもどろうとしたって道がわかるかや。おれが来しなに木の枝ほしょりおしょりして来たすけ、それを目印にしてもどれや。」
そう言われるってんがの。
あんにゃはへぇたまげてしもうたっての。
ばあばは、なんして木の枝なんかほしょうては落していらいるがんだろうと思うてきたら俺の帰りの道じるしにしてこらいたがんだって、せつのうて泣き泣き登ってきたすけ何処をどうやって来たやら道なんかわからんようになっていたがんだっての。
「あぁあ、こんげ頭のいいばあばを山へぶっちゃるなんてお上(かみ)は何て慈悲のないことを決めらいたがんだろうのし。」
なんか言うてまた泣き泣き戻って来たってのし。
だぁどもばあばのことが心配で心配で仕事も手につかんし、まんまものどへ通らんし、寝てもねいらんねでの何とかしてばあばをうちへ連れてきて、どっかへ隠しておこうやと考えたっての。
そうだ縁の下がいいと思うて、その晩のうちに台どこの縁板めくって穴を掘ってわらを敷いたりこもを敷いたりしてばあばの隠れ場をこしょうて、夜の明けるがを待ってまた山へ登って行ったての。
「ばあば、ばあば、俺おまえをぶっちゃって帰ったども心配でどうしょうもないんだが隠れ場をこしょうてきたすけ、うちへ戻ってくらっしゃい。」
と、言うたっての。
ばあばも喜んでまたあんにゃに負(ば)れてこんだトットトットとおりて来たっての。
まあ運よく誰にも会わんかってうちへついて台所の縁の下の隠し場へ入ってもろて三度三度まっま運んでいたってんがの。
丁度その時分隣の国の殿様から三つの難題を出さいて解かれんければ村を取ってしまうって言わいて旦那様が困ってまた主立衆を集めらいたっての。
その三つの難題ってのは、一つは、三尺ばかの丸太の右も左も同じ丸のをどっちが根元でどっちがうらっぽしだか当てれ。二つ目はたたかんたって鳴る太鼓を作れ。三つ目は灰でなわをなって来いってがんだっての。
それで、みんなで考えるどもいっこうわからんで、また村中へふれが出されたっての。その三つの難題解いた者には褒美が出るってがんだっての。
そいでみんなが我こそは褒美の金をもろうを思って考えるども誰もわかる者がいないがだっての。
そいで親孝行のあんにゃが「おらとこのばあばは頭のいい人だがしっていらいるか聞いてみようや」と思うて縁の下のぞいて
「ばあば、ばあば、今、村でこうへ難問が出さいて誰もわからんで困っているがおまえわかるかえ。」
と、聞いたとの。そうしたらばあばはニコニコして
「そんげんがは何のぞうさもねぇよや。三尺ばかの丸太はない、水の中へ入れてみれ。先に沈んだ方が根っこで浮いた方がうらっぽしだ。
叩かんたって鳴る太鼓ってはない、手ごろの桶を見つけて底を取って蜜蜂をいっぺことつかめてきて、そん中へ入れて紙を張ってみれ。叩かんたって蜂があたけてブンブンと鳴らや。」
と、きかせらいたってんがの。さあていっちあとの灰で縄をなうてこいってがんはいくら頭のいいばあばだってもなにわかるまいと思うて
「ばあば。灰でなんか、なに縄がないろばのし。」
と、あんにゃが言うたら。
「おお、灰でなんか、なに縄がなわれようばや。板の上に縄切れを置いてそれに塩をぶっかけて火をつけてみれ。縄がジョリジョリ燃えてそっくり形が残るすけ。それ崩さんよにしてそろんと持って行げや。」
あんにゃはたまげてしもうた。
大喜びして三つ作って旦那様のどこへ持って行ったっての。
旦那様もたまげたたり喜んだりしてほうびの金をどっさりくれらいて
「おまえはこの難問をてまえで考えたか。誰かに聞いたか。」
と、聞かっしゃるんだんが、あんにゃは正直に
「はあ、おら何も知らんがんだどもの。村の決りを守らんで申し訳けがないかったが、こういう訳でばあばを山へぶっちゃってきたども心配でまんまも食わんねし、ようさるも寝らんねでまた家へ連れて帰って、縁の下へ隠しておいたがだいの。そのばあばから教せてもろたがんだがの。」
と、言うたっての。旦那様がたまげて、
「そうか、年寄りっては経験が豊富だし頭もようてたいしたもんだない。その年寄りをごくつぶしだなんか言うて山へぶっちゃるなんて決めた俺が悪かった。早速ばあばを穴から出して大事にしてやってくれいや。」
と、言わしたってんがの。
そうして、それからは、年寄りをぶっちゃることはやめになったがんだっての。
あんにゃは褒美の金でばあばと一生幸せに暮したってこんだがの。
これでいちごさかえ申した。
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