姥の皮着た娘|新潟県の人気昔話の解説

新潟県に伝わる代表的な昔話を取り上げ説明します。解説は長岡民話の会顧問、高橋実さんです。最初に昔話の解説、その後に元話を掲載します。

解 説

 この話は、前半は、蛙報恩と言われている異類婚姻潭に分類される。蛇に嫁入りした娘は、「姥皮」をもらう事で、危機を逃れ、幸福を手に入れる事が出来る。ここでは、はっきり書かれていないが、「姥皮」をくれたのは、蛇に飲まれようとして助けてやった蛙としているところもある。後半は、姥皮の効用で大金持ちの息子と結婚し、幸福を手に入れるという継子いじめ「粟福米福」を連想させる。この話は、これら二つの話が統合されて出来たものといわれている。確かに、蛇に嫁入りした娘が蛇の嫁を逃れる場面と、婆さんの家で、姥皮をもらい、それがきっかけで幸運を手に入れる場面がうまく繋がらず、木に竹を接いだような不自然さが残る。金持ちの家の嫁になった娘は、継子の粟福だったという西洋のシンデレラ型の話となっている。先にこの欄で紹介した「宝手拭い」のように直接幸福をもたらす呪的宝物ではなく、娘を変身させて間接的に幸福に導いてゆく話である。

 

姥の皮着た娘(ストーリー要約)

とんと昔があったげろ。

ある村に金沢の権三郎(1)みてえの旦那様の家があったと。

そこのお嬢さんが乳が足らんで乳母をたのんだと。

そのお嬢さんをぶってたなのはたで遊んでいたら、たなの中で、へっびががえるを飲もうとしていたと。

乳母はかわいげになったんだんが、「へっびや、そのがえる飲まんけや、このお嬢さんがでっかなったら嫁に行ぐが」というたら、へっびはそのがえるを逃がしてやったと。

お嬢さんが、十七、八になったどき、へっびがいい男になって嫁をもらいにきたと。

家の衆がおおごとがって、娘に、「へっびのどこへ嫁にいぐか、どうしるや」と聞いたと。

娘は「親のいうことはなんでも聞くろも、頼みがある。

針千本と、ふくべ一つくれてくんねか」というんだんが、家じゃ大急ぎで娘のいうがんをそろえてやったと。

へっびはいい男になって、娘の荷物をかついで、先になって歩んでいったと。

そのうちに黒姫様の沢みてえのどこへ、でっけえ池があって、「これが俺の家ら」というと、池の中から亀や鯛が、軍配うっつあを持って迎えに来たと。

いんな中にはいってから、娘がもってきた、ふくべと針を投げたら、その池が血の海になったと。

家に戻ってみると、家もなんもなくて、しんたくの家が一軒残っていただけだった。

その家の衆に「おらの家はどうしたい」と聞くと、「山のげ(2)の下になっていんな死んだ」というだと。

仕方がねんだんが、娘は一人で、沢通ったり峠越えたりして歩いていたと。

ほうしたら、遠くの方にテカンテカンと灯りが見える。

これは助かったと思ってその灯めがけてゆくと、家があって婆さまがいたと。

「ひとばん、泊めてくらさい」とたのんだと。

「泊めてやってもいいろも、ここは鬼の家でおそくなって、鬼が帰ってくるんだんが、鬼の来ねえうちに、籠に入れて、てっじょうにあげるが、それでもいいか」というんだんが、娘も承知して、天井にあげてもらったと。

日が暮れて、おそくなって鬼が帰って来て「婆さま人臭いがだれか泊まらんかったかい」と聞いたろも、婆さまは、「そっげのことはねえ」としらばぐれていた。

次のあさげ、鬼は、朝飯食って出かけていったと。

鬼がいってから、婆さまは娘にまんまをどうろ食わしてから「おれがばばの皮をくれるすけ、それをかぶって行けば、なんに会うてもおっかんねえ」というて、婆の皮をくれたと。

山を越えたり、沢を通ったりして行くと、途中鬼が仕事していて、娘をめっけて、「おい、いい女が来たねか」というて、そばへ寄ってくるろも、婆さまだったんだんが、「あきたな、婆さまか」というて逃げていったと。

娘は江戸に向けてずんずん歩いて行ぐと、途中で日が暮れてしまった。

そこへごうぎな大尽様の家があったんだんが「こんばんは。おれを飯炊きにつこうてくんねか」とたのんだと。

ほうして飯炊きに使うてもらうことになった。

だいぶ日がたって、その村へ芝居がかかったと。

そこの家じゃ、昼湯をたって家中して入り、煮しめのごっつおを持って出かけていったと。

娘も、急に芝居が見たくなってばばの皮を脱いで、「たった一幕でいいすけ、見てこう」というて出かけ、木戸口で見ていたと。

一幕がおわると、すぐ家に帰って、留守居していたと。

あとから家の衆が帰ってきて、夕飯食っているとき、「今日の芝居はおもしかったのう」「それにしても木戸口の娘はどこの娘だろう」「あっげないとしげな娘見たことがねえ」と話していたと。

娘は、小屋の中で、ばばの皮脱いじゃ、灯りつけて本見ていたと。

それを夜遊びから帰ってきたあんさが見つけて、きれいな娘だったんだんがたまげて、毎晩見にいったと。

ほうしてあんさまが見初めて、そこの家のあねさになったと。

いきがすぽーんとさけた。

【出典】『榎峠のおおかみ退治―越後小国昔話集』小国芸術村友の会編 平成十二年刊 より要約
【注】1.金沢の権三郎(小国の豪農山口家のこと) 2.山のげ(山崩れ)

※高橋実著『越後山襞の語りと方言』雑草出版から著者了承のもと転載しました。

 

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